本好き乱読日記

敢えてうがった見方の一味違う「書評」を目指します(歴史関係中心の人文書全般)

『人事の三国志 変革期の人脈・人材登用・立身出世 』(渡邉義浩著・朝日選書)

前回『カラー版 史実としての三国志』に触れたが、誰しも三国志といえば関心があるのが、三者の栄枯盛衰がなぜ分かれていくのかという問題だろう。特に曹操が台頭し力を伸ばしていく理由と、孔明を擁しながら蜀が衰退に向かう理由であろう。

 

その答えを導いてくれるのが、本書『人事の三国志』である。曹操の人事の特徴は能力主義にある。そしてそれに徹底したことが結果として彼の権力を増大させた。幾多の才が綺羅星の如くに彼の周りに集まり、まさに人材の宝庫の体を成す。それがさらに活力を生み出し、組織を活性化して魏をけん引する。高校野球でいえば、二番手・三番手のピッチャーが次々と登板し、また打撃力がある代打が次々送り込まれてくる。層が厚く、憎たらしいほどしぶとく強い強豪校という感じだ。

 

その正反対が蜀である。三顧の礼で招いた孔明こそ傑出した才を持つが、後が続かない。エースで4番の大黒柱がつぶれるともう後が続かないという感じだ。エースを中心に全員が持てる力を全力でぶつけ、必死で攻め立て守り抜く、こちらはそんなチームという感じだ。しかし、劉備にすればこれしか国を建てる方法はなかったのだと思う。漢の末裔であることを売り物とし、義と情、そして中国の理想的な君子に求められる「徳」によって人々を集めようとしたやり方は、初期戦略としては間違っていなかったと思う。そもそも台頭すらできなければ、歴史に名を残すことすらできない。

 

取りわけ渡邉氏が注目するのが、各地の名士層の動向で、彼らは各地域で実力・経済力を蓄えて、独自のネットワークを結んでいたことが明らかにされる。かれらをどれだけ引き付けられるかといった場合、劉備のやり方の方が正鵠を射ているだろう。逆に曹操は彼らを敵に回す形になって思わぬところで苦心する。

 

というわけで、三国志を見るとき、興味は尽きない。本書もまたいろいろと考えるヒントを与えてくれた。次は日本史の本で考えてみたい。(了)